はじめに
透析室に配属されて間もない頃、多くの新人看護師が不安を感じやすい技術のひとつがシャント穿刺です。
「どこを刺せばいいのか」「A側とV側はどう決めるのか」「血管が細い・逃げる・深いときはどう考えればいいのか」「穿刺後に腫れたらどうすればいいのか」「脱血不良が出たとき、針を動かしていいのか」
このように、シャント穿刺では刺す技術だけでなく、観察・判断・固定・トラブル対応まで求められます。
日本透析医学会のバスキュラーアクセス使用法でも、穿刺前にはVA側の腕を観察し、発赤・腫脹・疼痛など感染を疑う徴候がある場合はその部位を避けること、手洗い・手袋・皮膚消毒などの感染予防が重要とされています。
この記事では、新人透析看護師がシャント穿刺で押さえておきたい基本と、現場で迷いやすい実践ポイントをまとめます。
この記事では、以下の内容を整理します。
- シャント穿刺前に観察するポイント
- A側・V側の基本的な考え方
- 穿刺部位を選ぶときの注意点
- 細い・逃げる血管への考え方
- 血管外穿刺や脱血不良を疑うサイン
- 感染所見があるときの対応
- AVG穿刺・止血で注意したいこと
シャント穿刺で大切なのは「刺す前の観察」
シャント穿刺は、針を刺す瞬間だけで決まるわけではありません。むしろ大切なのは、刺す前にどれだけ情報を集められるかです。
穿刺前には、最低限以下を確認します。
- シャント音・スリルはいつも通りか
- 血管の走行はどうなっているか
- 血管の太さ・深さ・硬さはどうか
- 皮膚に発赤・腫脹・熱感・疼痛・膿はないか
- 前回穿刺部に出血斑や硬結はないか
- 穿刺予定部位が瘤化していないか
- A側とV側の距離が確保できるか
- 透析中に腕を動かしても針先がずれにくい位置か
新人のうちは「刺せる血管を探す」意識になりがちですが、刺してはいけない場所を避ける判断も同じくらい重要です。発赤・腫脹・疼痛・膿・熱感がある部位は感染や炎症の可能性があります。
特に人工血管の場合、感染が起きると難治化しやすく、グラフト抜去が必要になることもあるため、軽く見ないことが大切です。
一点付け加えると、サーフローのときのように「刺せそうな血管を自由に探す」という感覚は通用しません。
リドカインテープを貼付した範囲内で穿刺しなければならないため、まったく見当違いな場所に貼付されていた場合を除き、基本的には貼付部位の中で穿刺することになります。
針穴をずらす必要もありますし、穿刺の向きによっても難易度が変わる、という点も意識しておくとよいと思います。
A側・V側の基本|再循環を防ぐ配置を考える
シャント穿刺では、脱血側をA側、返血側をV側と呼びます。基本的な考え方は以下です。
A側:吻合部に近い側V側:A側より中枢側
理由は、返血した血液をすぐに再び脱血してしまう再循環を防ぐためです。
日本透析医学会のバスキュラーアクセス使用法でも、血液の再循環を避けるために動脈側穿刺部位を静脈側より吻合部側に選択し、両者の間をできるだけ離すことが示されています。
新人のうちは、
「A側は血液を抜く側」「V側は血液を戻す側」「戻した血液をすぐ抜かない配置にする」と理解すると整理しやすいです。
実際の現場では、シャントの走行・血管の状態・穿刺可能部位・瘤・狭窄・過去の穿刺歴などによって、毎回理想通りにできるとは限りません。
基本を押さえたうえで迷う場合は、自己判断で無理に刺さず先輩や医師に確認することが大切です。
穿刺者と介助者の2人で入ることが多いと思うので、当日の血管の状況や穿刺位置について相談しながら進めることができます。積極的に活用してください。
穿刺部位の選び方|「刺しやすい場所」だけで選ばない
穿刺部位を選ぶときは、血管が見える・触れる・刺しやすそうという理由だけで決めないようにします。
吻合部に近すぎないか
吻合部直近は避けるのが基本です。吻合部付近でトラブルが起きると、再穿刺部位が限られたり、シャント機能に影響したりする可能性があります。ガイドライン解説では、吻合部から大体5cm程度以上離れた部位での穿刺が望ましいとされています
感覚的には、吻合部から3横指上くらいが大体5cmの目安になります。
A側で穿刺を失敗すると、基本的にそれより末梢側への再穿刺が必要になるため、吻合部近くで失敗すると選べる場所がかなり狭まります。
同じ場所ばかり刺していないか
同一部位の反復穿刺は、瘤化・狭窄・仮性動脈瘤などの原因になる可能性があります。穿刺部位はできるだけ広い範囲でローテーションする意識が必要です。
ガイドラインでも、AVFでは毎回穿刺部位を変えできるだけ広い範囲にまんべんなく穿刺することが示されています。
前回の穿刺穴は、ほかの穴と比べて痂皮化が進んでいなかったり、テープをはがしたときや駆血時に浸出液が出ていたり出血してしまうことがあるので、意外と見分けやすいと思います。
そういった視点でも観察してみてください。
透析中に針先が動きにくい場所か
穿刺時に入ったように見えても、透析中に腕を動かしたとき針先がずれる位置では危険です。
特に肘関節付近や可動域に近い部位では、体動による針先の移動・血管壁への接触・脱血不良・血管外漏出につながることがあります。
またずれるだけでなく、カテーテルがキンク(折れ曲がり)しないような場所を選ぶことも大切です。
ただ、そればかりを優先するとどうしても同じ穿刺部位になりがちなので、安全性を確保しながら少しずつずらすイメージが必要です。
患者さん自身から「腕を曲げるから影響のないところに刺してほしい」とお願いされることもあります。
そういった要望に応えられるよう、穿刺技術と判断力を少しずつ積み上げていくことが大切だと感じています。
血管の触り方|見るだけでなく、必ず触って確認する
シャント血管は、見た目だけでは判断できません。皮膚の上から太く見えても実際には深い場合がありますし、逆に見えにくくても触れるとしっかり走行がわかる場合もあります。
注意したいのは、太くていい血管だと思って刺したところ、太く見える部分をシャント本管だと思って刺したものの、実際には本管の隣にある枝血管だった、というケースもあります。
見た目だけで判断せず、触診で走行・拍動・スリルを確認することが大切です。
また、皮膚硬化があって血管のように触れる部位があり、本物の血管がどれかわかりにくいことも経験しました。
見た目だけでなく、触って確認することが本当に大切だと感じています。
穿刺前には指で血管を軽くたどりながら、以下を確認します。
- 血管の向き・深さ・太さ・弾力
- 逃げやすさ
- 拍動・スリル
- 狭窄を疑う変化
特に新人のうちは、穿刺直前だけでなく、穿刺前の観察時間にしっかり触れる習慣をつけることが重要です。
血管の走行を頭の中でイメージできていないまま刺すと、針先が血管に乗らない・血管を横切る・血管外に抜けるといった失敗につながりやすくなります。
穿刺角度の基本|角度は血管の深さで変わる
日本透析医学会の資料では、AVFの平均的な穿刺角度は25°前後とされています。ただし、穿刺角度は血管の状態によって異なり、浅い・細い血管ではより鋭角に、深い・太い血管ではより鈍角にするとされています。つまり、角度は固定ではありません。
新人が意識したいのは以下の流れです。
- 浅い血管:寝かせ気味に入る
- 深い血管:ある程度角度をつける
- 血管壁を通過したら針を寝かせる
- 抵抗のない方向へゆっくり進める
よくある失敗は、血管に入った感覚があったあとも角度を立てたまま進めてしまい、反対側の血管壁を突いてしまうことです。
逆に、最初から寝かせすぎると皮下を進むだけで血管に届かないこともあります。
V側を穿刺する際に注意したいのが、刺そうとする血管の真下に動脈が走行していることがある点です。
動脈穿刺を避けようとして浅く刺そうとすると、上滑りして血管に刺さらないということも起こります。深さと穿刺角度をしっかりイメージしてから刺す意識が必要です。
探るように針先を動かすよりも、穿刺前に血管の走行と深さをしっかりイメージし、狙いを定めて進める意識が大切です。
角度は「何度」と暗記するより、血管の深さに合わせて調整するものとして理解したほうが実践に合います。
細い・逃げるシャントでは固定が重要
細い血管や逃げやすい血管では、針の操作だけでなく穿刺前の固定が重要です。血管が動きやすい状態で刺そうとすると、針先が血管に乗らず血管を押して逃がしてしまうことがあります。
意識したいポイントは以下です。
- 皮膚を軽く張る
- 血管の走行を確認してから固定する
- 血管をつぶさない程度に支える
- 針先が入る方向と血管の走行を合わせる
- 無理に追いかけない
血管が逃げたときに針先で追いかけるように動かすと、血管壁を傷つけたり血管外穿刺につながったりします。入りにくいと感じたら一度止まり、針先の位置・血管の深さ・角度・固定の状態を確認します。
私自身の癖として、血管にうまく乗らなかったとき、針先が血管の左側にずれていることが多いと感じています。右利きの場合、立ち位置や手首の向きが影響しているのかもしれません。ただし、これはあくまで私の場合です。大切なのは、自分がどちらにずれやすいかを振り返り、次の穿刺で立ち位置や針の向きを調整することです。
穿刺後の確認|逆血だけで安心しない
シャント穿刺をして逆血があると「入った」と判断しがちですが、それだけで安心するのは危険です。
穿刺後は以下を確認します。
- 逆血の勢い
- フラッシュ時の抵抗
- 患者さんの痛み
- 穿刺部周囲の腫脹・皮下の膨隆
- 針先の安定・固定後の向き
- 回路接続後の脱血状態・静脈圧
逆血があっても、留置位置が浅かったり穿刺しきれていなかったりすると脱血できなくなることがあります。
また、側副血管に刺さっていた場合、逆血もあり、シリンジで血液が引けるのに透析の脱血ができない、というケースも経験しました。そのときは刺し直しになりました。
「刺せたかどうか」ではなく、透析を安全に開始・継続できる状態かを確認することが大切です。
血管外穿刺を疑うサイン
血管外穿刺は、早く気づくことが重要です。疑うサインには以下があります。
- 穿刺部周囲が腫れる・皮下がふくらむ
- 患者さんが痛みを訴える
- フラッシュ時に抵抗がある
- 逆血が弱い、または不安定
- 脱血不良が続く
- 静脈圧がいつもと違う
- 透析開始後に穿刺部周囲が腫れてくる
脱血中に送り込まれた液が押し込まれ、腕があっという間に腫れた経験があります。このとき静脈圧が急上昇したので、血管外だとすぐにわかりました。
ただ、穿刺時の血管攣縮でも静脈圧が上がることがあったので、圧だけでなく腫れや痛みなど複数の所見を合わせて確認することが必要だと感じています。
新人のうちは「少し腫れている気がするけど大丈夫かも」と迷うことがあります。
しかし血管外穿刺は放置すると血腫が拡大し、再穿刺が難しくなったり患者さんの痛みや不安につながったりします。
迷った時点で一人で判断せず、すぐに先輩へ報告してください。
血管外穿刺時の基本対応
血管外穿刺を疑った場合は、無理に透析を続けないことが大切です。基本的な流れは以下です。
- 穿刺部の腫脹・疼痛を確認する
- 脱血状態や静脈圧を確認する
- 血管外を疑う場合は無理に針を進めない
- 先輩・医師に報告する
- 必要に応じて抜針・圧迫止血を行う
- 再穿刺部位を検討する
- 腫脹・疼痛・皮下血腫の広がりを観察する
ここで大切なのは、針を動かして何とかしようとしすぎないことです。
施設でエコーを使用できる環境があれば、針先や血管の状態を確認する方法もあります。ただし、使用方法や感染対策は施設のルールに従う必要があります。
エコーが使えない場合や判断に迷う場合は、無理に探らず先輩や医師に相談しましょう。
脱血不良が起きたときの見方
脱血不良では、すぐに「針が悪い」と決めつけるのではなく、原因を分けて考えます。
針先の問題
- 針先が血管壁に当たっている
- 針先が浅い・血管外に出かかっている
- 固定や腕の位置で針の向きが変わった
血管側の問題
- 血管が細い・深い・蛇行している
- 狭窄がある・血流が弱い
回路・設定側の問題
- クランプの開放忘れ・回路の屈曲・折れ
- 血流量設定が高すぎる
- 体位や腕の位置の影響
脱血不良時は、まず安全に確認できるところから見ます。
回路の屈曲・クランプ・腕の位置・固定状態を確認し、それでも改善しない場合に針先や血管側の問題を考える順番が基本です。
感染を疑う所見があるときは穿刺しない判断も必要
穿刺予定部位やその周囲に以下の所見がある場合は、感染を疑います。
- 発赤・腫脹・熱感・疼痛・膿
- 浸出液・皮膚のただれ
- グラフトに沿った発赤
日本透析医学会の資料でも、穿刺前にVA側の腕を観察し、感染の徴候がある場合はその部位を避けて穿刺するとされています。
特に膿やグラフトに沿った発赤がある場合は、単なる皮膚トラブルではなくシャント感染として慎重に対応する必要があります。
新人のうちは「このくらいなら刺していいのかな」と迷いやすいですが、感染を疑う所見がある場合は自己判断で穿刺せず、必ず報告してください。
人工血管AVGで特に注意したいこと
AVGは自己血管AVFとは違う注意点があります。ガイドラインでは、同一部位の反復穿刺を避けてグラフト全体にまんべんなく穿刺すること、AVFよりも鈍角で穿刺すること、抜針・止血時には針先が皮膚から離れてからグラフト上の穿刺口を適切に圧迫することが示されています。
AVGで注意したいポイントは以下です。
- 感染に注意する(感染の原因の多くは穿刺ミスや止血不良に生じた血腫がきっかけになるといわれています)出典:血液浄化療法ハンドブック2025,p.167
- 同じ部位ばかり刺さない
- グラフトの走行を正確に把握する
- 強く圧迫しすぎて閉塞させない
- 止血後も出血や腫脹を確認する
- 発赤や膿があれば軽く見ない
特に人工血管の感染は難治化しやすいため、発赤・膿・熱感がある場合は早めの報告が必要です。
止血時のポイント
抜針後の止血も、シャント管理では重要です。止血では、単に強く押さえればよいわけではありません。
強すぎる圧迫はシャント血流を止めてしまう可能性があり、弱すぎると出血や血腫につながります。
確認したいポイントは以下です。
- 穿刺針を抜いてから穿刺口を圧迫する
- 針先が皮膚から離れてから圧迫する
- 穿刺口を正確に押さえる
- スリルや拍動が消えない程度に圧迫する
- 止血後に再出血がないか確認する
- 腫脹や疼痛がないか観察する
ガイドライン解説でも、止血ではスリルや拍動を指先が感じる程度に軽く押さえることが説明されています。
私自身の方法としては、グラフトの場合、最初の1〜2分は少し強めに押さえて出血がないことを確認し、その後少し力を弱めます。
A側とV側の間に空いている指を当てて血流を感じるようにしたり、V側より中枢側でも血流を触れながら力加減を調整しています。
押さえているところだけでなく、ほかのグラフト部位にも指を当てて全体の状態を確認する意識が大切だと感じています。
新人がやりがちな危険なパターン
新人のシャント穿刺で注意したいのは、技術そのものよりも、焦ったときの判断です。
入らないのに針先を探り続ける
針先の位置がわからないまま血管を探ると、血管壁を傷つけたり血腫を作ったりする可能性があります。
迷ったら一度止まることが大切です。
逆血だけで安心する
逆血があっても針先が安定しているとは限りません。
フラッシュ時の抵抗・痛み・腫脹・透析開始後の圧変化まで確認します。
固定を軽く考える
穿刺が成功しても固定が不十分だと透析中に針先がずれることがあります。
針先の向き・テープ固定・腕の位置を確認します。
異常所見を「たぶん大丈夫」と判断する
発赤・腫脹・痛み・膿・脱血不良・静脈圧異常などは軽く見ないほうが安全です。
新人のうちは「判断できないこと」を恥ずかしがらず、報告することが大切です。
シャント穿刺が上達するために意識したいこと
シャント穿刺は、回数だけで上達する技術ではありません。ただ数をこなすだけでは、うまくいった理由も失敗した理由も曖昧になります。毎回以下を振り返ることが大切です。
- なぜその部位を選んだのか
- 血管の深さはどうだったか
- 角度は適切だったか
- 固定は十分だったか
- 逆血やフラッシュはどうだったか
- 透析開始後に問題はなかったか
- 次回ならどこを刺すか
- 先輩ならどう判断したか
特に新人のうちは、穿刺後に先輩へ「この血管はどう見ればよかったですか?」と聞くと学びが増えます。「入った・入らなかった」だけでなく、判断の根拠を増やすことが上達につながります。
まとめ
シャント穿刺は、新人透析看護師にとって不安が大きい技術です。しかし、穿刺で大切なのは勢いや度胸だけではありません。
重要なのは以下の一連の流れです。
- 穿刺前に観察する
- 感染や異常所見を見逃さない
- A側・V側の基本を理解する
- 血管の走行・深さ・逃げやすさを確認する
- 血管に合わせて角度を調整する
- 固定を丁寧に行う
- 穿刺後も腫脹・痛み・脱血状態を確認する
- 異常時は一人で抱えず報告する
新人のうちは、うまく刺せないこともあります。大切なのは、無理に成功させようとすることではなく、患者さんのシャントを守りながら安全に判断することです。
シャント穿刺は、経験を重ねるほど「刺す技術」だけでなく、「観察して、予測して、危険を避ける技術」だとわかってきます。焦らず、毎回の穿刺から少しずつ学んでいきましょう。














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